カスハラとは 厚労省マニュアルと東京都条例を分かりやすく解説します

1.カスハラに対する社会的な注目度の高まり
近年、カスハラ問題に対する社会的関心が高まっています。せっかく前向きな気持ちで就職した先を理不尽なカスハラで辞めるのはとても残念なことですし、企業の側からしてみても、そのような理不尽な理由で大切な従業員が傷付き、退職してしまうことは、極めて大きな損失です。
そこで今回は、カスハラに対する昨今の動きと対応のポイントをお伝えします。
1-1. 東京都を皮切りにした自治体での条例化の動き
国や自治体でも対策が進んでおり、2022年2月には厚生労働省が『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』を公開し、2025年4月からは東京都で『カスタマー・ハラスメント防止条例』が施行されます。他でも様々な自治体にカスタマーハラスメント(カスハラ)対策の動きがあり、こういった動きにより、事業者の責務が明確になり、従業員保護のための取り組みが求められるようになりました。
1-2. 連日の報道
カスハラに関する報道はテレビや新聞、SNSなどで頻繁に取り上げられ、企業の対応が注目を集めています。特に、カスハラの深刻な事例が報じられるたびに、企業の対応策の必要性が強調されるようになっています。
1-3. ユーキャン流行語大賞への選出
「カスタマーハラスメント」という言葉が、ユーキャン流行語大賞にノミネートされるなど、一般社会においても広く認知されるようになりました。これにより、カスハラへの意識が高まり、従業員が就職先を探すときにカスハラ対策を意識するなど、企業の対策強化が求められるようになっています。
2.クレームとカスハラの定義
クレームとは、企業の提供する商品やサービスに対する不満を顧客が伝える行為であり、企業の品質向上や顧客満足度の向上に寄与する側面もあります。一方、カスハラは、顧客の立場を利用して従業員に対し過度な要求や人格を傷つける言動を行う行為を指します。
具体的には、
- クレームの例: 商品の不具合に対し交換を求める、接客態度が悪かったことに対する謝罪要求など。
- カスハラの例: 大声での恫喝、土下座の強要、長時間の拘束、暴言・差別発言、無理な要求を繰り返す行為など。
3.厚生労働省のカスタマーハラスメント対策マニュアル
前述の通り、厚生労働省は「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公表し、企業が取るべき対応策を示しています。
同マニュアルでは、企業に求められる対応として、以下が挙げられています。
- 経営層がカスハラを許さない方針を明確に示す。
- マニュアルを作成し、従業員に研修をする。。
- 従業員向けの研修やメンタルケアを実施する。
- 顧客対応を記録し、必要に応じて警察や弁護士と連携する。
4.東京都カスタマーハラスメント防止条例
東京都は、2024年4月に「カスタマーハラスメント防止条例」を施行しました。
この条例は、カスハラを「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するものをいう」と定義し、事業者の責務として、以下のことを求めています。
- 都の指針に沿って対応すること。
- 就業者がカスハラ被害を受けた場合、適切な対応を取ること。
- 就業者が顧客となって自らカスハラを行わないように必要な措置を講じること。
このように、企業には法的な枠組みの中で、カスハラへの対応が求められています。
5.対策のポイント
企業がクレーム対応とカスハラ防止を両立するためには、以下のような取り組みが有効です。
- 「カスハラ」の定義の明確化
国や自治体の基準を踏まえ、自社の実態に合った定義を作成する。 - 明確な対応方針やガイドラインの策定
従業員が対応に迷わないように、明確な対応方針を定め共有する。 - 具体的なマニュアルの整備
実際にトラブルが発生した際に、誰もが同じように対応できるように、組織としての具体的な対応フローをマニュアル化する。 - 教育や研修の実地
マニュアルを作るだけで終わるのではなく、実際にトラブルが発生した時に自然に行動できるように、アクションの伴う研修を実施する。 - 社内外の相談体制の構築
実際にトラブルが生じた時、初動として相談する先や、フォロー担当者、二次対応のエスカレーション先などの体制を構築する。また、従業員が気軽にカスハラ被害を相談できる窓口を設け、メンタルヘルスをサポートする。
6.まとめ
カスハラは、クレームの延長ではなくセクハラやパワハラと同じハラスメントの一種であり、企業は「被害者」の立場に甘んじるのではなく、従業員を守るため主体的・積極的に対策を講じることが求められます。クレームは顧客の正当な権利として受け止めるべきですが、カスハラに対しては従業員を守るための対策を講じることが企業の責任となります。
厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルや、東京都のカスタマーハラスメント防止条例といった公的な指針を参考にしながら、企業として適切な対応を整え、従業員が安心して働ける環境を築くことが求められます。
(本コラムは、カスハラやクレーム対策の専門家であるProClaim様(プロクレーム)様のサイトを参考に作成しました。)